観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『夜の女たち』

会場:KAAT ホール
作・演出:長塚圭史 音楽:荻野清子
上演時間:2時間45分(休憩1回、20分あり)


戦後すぐの大阪。貧困の中、様々な理由で時に犯罪に手を染めながらも生き抜こうとする人々を描く。
原作は溝口健二による映画『夜の女たち』(1948)。これは当時の現地で撮影され、それゆえフィクションだがドキュメンタリーのようにもみえるらしい。

さて本作は新作ミュージカルである。
そして長塚圭史はミュージカルの演出が初。主役級の役者もミュージカル未経験者が揃った。主演にいたっては歌っているイメージすらない。
発表当初から不安な演目で、コメント・インタビューが出てくる度にそれが増大した。歌が上手くないことをネタにするような発言をするな、その態度で客を取ろうとするな、と何度も思った。
でも観に行ったのはなぜか。芸術監督:長塚圭史のKAATが面白いのと江口のりこが好きだからです。えぇ、ミーハーだよ。ちょろい客だよ。

ざっくりとした感想としては、思ったほど悪くはなかったが人に勧められるものではない、というところ。

長塚圭史は、この題材をミュージカルにした理由を「勉強のような作品になってはいけない」から、またミュージカル未経験者を起用した理由を「未開の領域へ触れるパワーが作品の核心に近づくものになるだろうと考えたから」としている。
前者は成功しているかもしれないが、後者はかなり微妙だと思う。というのもやはり、役者の歌が悪いからだ。いくらパワーがあろうが、音があまりに外れてしまうと客としては心が離れる。

中でも江口のりこ福田転球が良くない。
江口のりこは難しいメロディーになるとすぐ音がずれる。これに加え、話し言葉の声質と歌声の声質が合っていないのが辛い。歌が話から浮いている。高音をきれいな声で出すので、であれば話し言葉をもう少しはっきりきれいに出すべきだ。比較的低音だったり感情優先で声が荒れると聞けるので、そういうナンバーの多い後半はまだ聴けた。
福田転球は何が原因かよく分からないが、先の『てなもんや三文オペラ』の方が歌と演技とシーンが合致していた。声質的に、本人も相手方も大げさに動いてくれるといいのかもしれない。

おそらく、長塚圭史は無様な人間を舞台上に出現させるのが好きなのだと思う。それはいい。今回はそれを、歌に慣れていない人が無理やり歌うことで表現しようとしたのだろう。「未開の領域へ触れるパワーが作品の核心に近づく」だ。素晴らしい歌の鑑賞会になっちゃいけない。ただ、優れたミュージカル俳優というのはそういう演出意図をくんで演技するものだと思うし、そういう演技に導くのが演出家の仕事じゃないのか。以前みた『Dreamgirls』の「It's All Over~And I Am Telling You I'm Not Going」とかそのあたり見事に合致していた。

シーンとしては、院長と教育婦人の場面が気になった。院長(北村有起哉)が突如として説明セリフを長々喋り出すのも気になるし、教育婦人がいかにもな"フェミニストおばさん"でつまらない。しかもこれが、自戒に見せかけたマンスプレイニング的なシーンになっており非常に嫌な気持ちになった。

音楽は概ね良かった。特に複数のナンバーを組み合わせたような曲は巧みで面白い。
ミュージカル未経験者だと前田旺志郎が良かったが、これは意外性によるものかもしれない。上手くはないのだけど、自分の声で場をよく掴んでいた。場数を踏めばもっと伸びると思う。女役のシーンを面白にせず誠実に演じるのも好ましい。
美術・照明はクールで、特に壁面の表現が良かった。