観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『不思議の国のアリス』新国立劇場バレエ団

会場:新国立劇場オペラパレス
出演:小野絢子、スティーヴン・マックレー 他
全三幕。休憩含め3時間ほど。


大昔にくるみを観たような気がする、以来のバレエ。実質初。

オペラパレス外の階段からトランプ柄の装飾がなされており、ロビーも楽しい雰囲気。
席は一階の最後尾だったが、傾斜がついているので遠く感じなかった。


一幕一場(というのか?)から圧倒される。
以下、バレエ初めての人の感想。

つま先立ちで何でそんなに細かく足を動かしてバック出来るのか、そして綺麗…
すげぇ飛ぶじゃん
回転! ナチュラルに回転しながら飛ぶ!
メインアクトの裏でそんなサラッとしかも次々とその技を?
身体持ち上げられてもポーズと優雅さ維持できるのすご…

みたいな、身体面での凄さに加えて、音楽がポップで楽しければ、美術も素敵だし衣装も可愛い。すごい。総合芸術だ。

1幕1場終わり、アリスを喜ばせようと男(ルイス・キャロルらしい)が写真撮影をするところから(明確に)夢に入って行く。回転しながら伸びてゆくスタンド付き写真機、ウサギの置いた穴から出るスモークなど、大掛かりではないが非日常へ誘う技術が楽しい。

穴に落ちて扉の間。小さな扉から花に満ちた幸福な庭園が見えるシーンで、客席へ花びらが降ってくる。
こんな始まってすぐに客席に花びら降ることあるんだ!? まだ作品の導入部だよね??と衝撃を受ける。客を楽しませようとするサービス精神の旺盛さ。

その後は身体が大きくなったり小さくなったり、涙の池で泳ぐシーン、動物たちのレース、公爵夫人の家、と続く。
動物たちのレース、後半皆で走る演出が小劇場風味で面白くみた。
公爵夫人の家のシーンは美術が秀逸。外観はステッチで描かれた可愛らしい家のパネルでみせる。"SWEET HOME" とデカデカ書かれているのが、SWEETでない今後の展開を予感させる。パネルが上に仕舞われると内観。グロテスクだが、大げさなのと赤でなくオレンジをメインに使うことでポップに見せている。ここのスモークも好き。
ベタだが、船で移動するシーンも映像と船の装置がよくマッチしており見ていて楽しい。


2幕。チェシャ猫、お茶会、チェシャ猫、アリスが思い悩むシーン、オリエンタリズムイモ虫、庭園。

アリスが一人悩むシーンからイモ虫のシーンへの転換が見事。アリスソロでは、もくもくとした煙が次第に文字("Where are you?" であるとか)を形作ってゆく様子が映像で示される。この映像が何度か繰り返され、4度目か?また文字に変わるのかなと思いきや、そのままイモ虫の吐くタバコの煙へと移行する。夢の中でのシーン移行が連想ゲーム的である様をよく表現している。

庭園のシーンは、まぁ花のワルツでいかにもなバレエ(バレエ初見者のイメージ)なのだが、ここに行くのがイモ虫から貰ったキノコを食べたから、というのが面白い。ドラッグじゃないかと。

2幕はマッドハッター・イモ虫・アリスソロと、少ない人数での踊りをじっくり観たり、チェシャ猫のパペットでの表現を観たりと、1幕と比べると(変わらず面白くはあるのだが)落ち着いた印象。大掛かりな美術装置は出てこないな~と思っていたら最後に舞台の1/3を占めるくらいのデカい斧が天井から降り下ろされ、"INTERVAL" の文字がその上に映しだされて終幕。やられた。とことん楽しませてくれる。


3幕。庭師、女王の踊り、クロッケー、法廷、エピローグ。

女王の踊りが物凄く面白い。バレエらしい踊りをしようとするのだが、王は中折れして相手役をしてくれない(こんな下ネタするんだ? と驚いた)。やむを得ず部下が代わる代わるやるのだが、怖がってガクガクしながらやる様が滑稽。演技とダンス技術の高さ。

法廷とその前のシーンは、過去出てきたキャラクターが再登場する。音楽も、そのキャラクター登場時に使ったメロディーや楽器を用いて、総集編みたいな音楽になっており耳も楽しい。

最後に王が女王を倒した後のシーンはスッキリ感がなく、あらたな歪んだ権力の登場をみせた。王が弱いように見えたのは、女王に勝るところをみせたら殺されるから弱々しく振る舞っていただけで、最高権力の座をずっと狙っていたのだ。怖い夢の終わり方。

夢から抜け出すとそこは冒頭のシーン…ではなく、現代のオックスフォードである(それにしちゃラジカセは使わないだろとは思うがまぁ現代機器は小さくて大きな舞台では分かりづらい)。現代のアリスとジャックが踊り、通りすがりのカメラマンが現れウサギっぽさをみせて閉幕。こちらはくすっと笑える終わりだ。

その他、「木の役」らしい木の役とか、チェシャ猫の音楽とか……。


バレエを初めて観た感想としては、すごい人たちが沢山出て来てすごいことを次々と当たり前みたいにやっていく、優雅で高い技術の無言劇だなぁ、というとこ。
幕間の長さ(20分×2)に合わせてロビーやテラスに沢山席が用意されたり飲み物や軽食があるのも、知り合い同士っぽい客が多くて挨拶が頻繁に交わされたりしているのも、こんなサロン的な文化があるのだなぁと面白かった。

初めて自らスタオベした。特定の誰かでなく、全員・全セクションが素晴らしい舞台だった。特にアリスだからだろうが、客を楽しませようとする精神をバレエでこんなに感じられるとは想定していなかった。他の演目がどうだかは分からないが、是非また観たい。