観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『テラヤマキャバレー』

会場:日生劇場
作︰池田亮
演出:デヴィッド・ルヴォー
上演時間:2時間40分(途中休憩25分含む)

 
主演・香取慎吾、脚本・池田亮、演出・デヴィッド・ルヴォーでもって寺山修司日生劇場でやるという、娯楽作品ではあるんだろうな、くらいしか事前の予想がつかない演目。値段もそれなりにするし行くか迷ったのだけど、バンドメンバーに内橋さんがいるので一定面白いものが出てくるだろうと見込んで行った。あと単純に香取慎吾見たかった。
結果、あまり好みではなかった。

 
行くか迷った理由の1つとして、ゆうめい(池田亮が所属する団体)の『ハートランド』が好きじゃなかった、というのがある。岸田國士戯曲賞の最終候補になっているけども。
ゆうめい、といえば家族を、それも池田亮自身の家族を描いた作品で著名である。しかも実父が出演していたり、(実現しなかったが)実母をアフタートークのゲストに呼んだり、かなり攻めたことをやっていた。それで以前から気になっていて、予定が合ったのが『ハートランド』だったので観に行ったというわけだ。
本作で描かれたのは、実体験をもとに芸術を作る際起こる、"元ネタ"、つまり実在する人たちへの搾取や消費といった加害についてである。
そのテーマ自体はいい。いいのだけど、実の家族を用いているのを宣伝文句にしておいて、自覚なかったんだ!という驚きの方が勝ってしまった。観る側としても、危うい刺激を求める自らの悪趣味さは先刻承知して、共犯関係結んで観劇していたのではないか。それを急にはしご外されて素朴に反省されても困る。し、それならそれで加害をテーマにドカンと衝撃ぶつけるならまだしも、他にも色々要素盛り込んで作品としてまとまらない。そんな様子が私には合わなかった。

 
さて今回の『テラヤマキャバレー』。まさにこのテーマが扱われている。寺山修司が創作において母、ハツを用いたことへの罪の意識と、幼い頃から求めた母からの愛。『身毒丸』の台詞が引用され、無様に泣く寺山修司
あんなに露骨に母を使っておいて、今さら誰に許し求めてんだ? と思ってしまうのである。虚構の許しは得ずに、みんなで罪背負って生きていくために集団創作たる演劇やってんじゃないんですか? てなかんじで、まぁ気が合わない。

また『テラヤマキャバレー』自体も、実在する/した人物を扱う演劇なのだが、その手付きがかなり軽い。そもそもが"演"劇であるというのに加え、場面は寺山修司の夢の中、さらにその夢の登場人物がイタコよろしく憑依されているという構造で、単純に実在の人物を演じるのとは異なるのは承知している。とはいえだ。
虚実皮膜論を唱えたとされる近松門左衛門が、あんなにすぐ実に飛びつくだろうか。自衛隊に決起を呼びかけ、(その心根はともかく本人的には)言葉を尽くた後自決した三島由紀夫が、現代の若者と対話するのを諦めてただ座っているだろうか。そして「偉大な質問になりたい」と記した寺山修司が、最後の質問と言いつつ軽い質問を重ねてしまうものだろうか。
私の身勝手な理想とズレてるだけですか? それともある種スター化された人物を人間に引きずりおろすための試みなんですか?(質問)

 
……それでもまぁグッとくるところもあって、それは寺山修司が演劇の喜びを語るくだり。あそこは好きだった。というか、このシーンがないとだいぶキツかった。
ここでのメッセージが芝居の終盤にあるから、これは寺山修司やその周辺の人物そのものについてではなく、寺山修司を中心に演劇(特に日本の)について表現する作品なのだと観客は掴める。そして今までのシーンや人物描写に納得は出来なかったとしても、理解はして劇場を後にできる。

ただ他にも引っかかりはある。
現代の若者を見て「ことばが無い」と言うけど、寺山の言葉を狂信的に求める劇団員たちには、言葉、あるんですね、とか。
『武』と色紙に書かずに死ぬことにした三島由紀夫に、ずいぶん気軽に『武』やその他色紙を持たせるよなとか。三島が身体鍛えてたのは確かだけど、そういう曲芸的な方向で表現するのはどうなの?とか。いや、三島のそういうあり方は私も別に好きなわけじゃないけど、変わった形で使うなら、きちんと批評するかもっとおちょくるかしたらどうなんですか、つまみ食いするような要素じゃないでしょう、なんて思うわけですよ。

 
というわけで、引っかかりの方が多すぎて私はあまり楽しめませんでした。
平間壮一の身体能力素晴らしい。成河はシンバルを落とすの含め、諸々タイミングが絶妙。(「シンバルを落とすと〜」の件は成河への当て書きだろう)
音楽は、スティーヴ エトウさんが色々面白い音を出していて楽しい。最後にドラム缶叩いてんの気付いて驚くなど。
初めましての日生劇場はロビーに椅子が多いし劇場内の内装は素敵だし客席は広すぎないしで良かったです。
あとカテコでニコニコしている香取慎吾見れて、あぁこれが見たかったんだと思った。だったらライブに行け。