観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『歌わせたい男たち』

会場:びわ湖ホール 中ホール
作:永井愛(二兎社公演)
上演時間:1時間45分(終演後永井愛のトークあり)


滋賀・京都観劇旅行第一弾。
『ザ・空気 ver.3』を映像で見たのみでずっと気になっていた二兎社を観れて嬉しい。東京公演は激務その他につき行けず、日程よく琵琶湖も見たかったので滋賀にて観た。

舞台は都立高校。国歌の不起立を巡る、卒業式の朝の騒動。
主人公の音楽教師、仲ミチルは卒業式のピアノ伴奏を頼まれ気が重い。というのも、元はシャンソン歌手で音大卒業以来ピアノにあまり触れていないからだ。連日の練習による過労でめまいをおこして服にお茶をこぼしてしまい、保健室のベットにいる。
そこに偶然校長が入ってくる。校長はやたら仲に気を遣う、というか国歌に対する仲の心情を気にする。仲の前任が国歌の伴奏に抵抗を示し、ついに辞めてしまったからだ。
その後、仲と親しい社会科教師、拝島も保健室を訪れる。仲はめまいの中落としてしまったコンタクトレンズの代わりに拝島の眼鏡を借りようとするが、拝島は国歌斉唱への反対を理由に断る。
そこに教師生徒全員の国歌斉唱を推進する同僚片桐や噂好きの養護教諭按部、そして校長が加わりてんやわんや。さらに昨年まで勤めていた国歌斉唱反対派の桜庭(登場しない)がビラを撒き始め、学校全体を巻き込む騒動に……。

面白かった。
自分の信念と異なる行動をせざるを得ないとき、予め決まった結論に向けて文章の読み解き方・理解の仕方をねじまげていく様とか。国歌斉唱に向けた説得は、国歌斉唱そのものについてでなく、それをしなかったことによる規律の乱れ・他人への迷惑が強調されることとか。
そういう、政治と思惑と人間の弱さについての話も面白かったし、単純に演技の上手い人たちがドタバタ騒ぎをしているのを観るのは楽しい。
俳優は特にキムラ緑子が良かった。テレビではあまり観れない、ふわふわっとした喋り方がよくあっていた。

拝島の反応として「笑う」というのがいささか多いのが気になった。ワンパターン過ぎないかと思ったが、もしかしたら意図的なのかもしれない。
昨年不起立だった在日韓国人の生徒の扱いも気になった。少なくともヨン様の真似をしたところで高校生はときめかないのではないか。

終演後にあったトークで、内心の自由と演劇に関する話がちらりと出たのは興味深かった。
私が演劇に限らず劇場にいて心地が良いのは、即発言をすること、を基本的に誰も求められないからだ。発言をする場、というのはどうしても権力関係だったり、場の流れに合わせろという圧力だったりが生まれてしまいがちだ。あまり自身の内心とは向き合えていない気がする。
しかし劇場における発言はじっくり練られた言葉であることがほとんどで、それに対し暗い客席で一人頭をぐるぐる動かして反応できる。そして、だからといって完全に一人ではない。役者がいて、周りの観客がいて、その反応を見ることもできる。
内心は頭の中にあることばによって作られる。安心できる場所で様々な情報を吟味して自分の感情と打ち合わせ、やっと出てくることばこそが、力から離れた、より自由な内心なんじゃないかと思う。劇場はそういう内心の自由を育てあげる場の1つで、そういう訓練を重ねることで、日頃の行動における内心の自由も守られていくんじゃないか。みたいなことを考えたり。