観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『さいごの1つ前』

会場:逗子文化プラザ なぎさホール
作・演出:松井周
上演時間:85分(休憩なし)


KAATキッズ・プログラムの演目の1つで、2022年にも上演された作品の再演。
国内各所に加え、県内ツアーもあるということで、最も家から近い会場である逗子文化プラザでみた。ありがたいことです。

この世でないどこか。集められた3人は案内人の導きで地獄に連れて行かれるらしい。その道中。

とても良かった。
ほんとに。

何より空気が良かった。
開場中、ロビーではガチャガチャの案内をしている。場内のしきりに雲やキャラクターの装飾がついている。客席は照明によって染められ、天井や壁には星やドットの柄が映し出されいる。そしてハワイアンミュージックだろうか、のんびりした音楽が流れている。(これがまた逗子という土地に合っている!)
こういうね、大人たちの子どもを楽しませてやろうという気概で満ちた空気がもうとても良くて、開場中からそのあたたかさに泣きそうになった。

もちろん本編も良い。
死んだ後はどこに行くの?そのためにはどう生きるの?というお話で、普段考えないけれど重たくなりすぎないテーマでよい。
その中で、地獄が決して悪いイメージでないのが面白い。(個人的には、RINA SAWAYAMAの「もしクィアな人たちがみんな地獄に行くなら、楽しそう。パーティーみたい。」(ハフポストTikTokより)といった発言を思い出した。) 序盤にある、ワークショップでこどもたちが作った作品を用いて行われる「これが地獄の最新事情!」のコーナーも朗らかで楽しい。「最新事情!」ということばも可笑しくて好きだ。
成功や名声が天国に行くための「最高の思い出」とされない、というのはいかにもキッズプログラム的で、幸せは人それぞれだし成功したら嬉しいじゃん、なんて思って見ていたが、もしかしたらみんなで仲良く笑い合って暮らす天国にはそういう思い出を「最高」のものとされるのは都合が悪いのかもしれないと思ったり。

キャラクターも魅力的。
演者もいいし、それを衣装・ヘアメイクが引き立てている。
白石加代子は観客を引き込むのが巧みだ。観客とのコミュニケーションも、しっかり観客の反応を受け止めた上で反応していた。その時の楽しく話せるおばちゃん感も、役における可愛らしい少女のような振る舞いも、時折出る凄みも分裂せず説得力がある。
あとミチロウ(演:薬丸翔)という、大企業の経営者だったキャラクターがいて、いいキャラなんですよ。偉そうなのに全部さらけ出してて。ミチロウが歌う「ミーチ、ミッチミッチ、ミチロウです、よいしょ!」というキャッチが、こどもたちに大ウケだったことは書き記しておきたい。

演出も楽しく。白石加代子の胎内から惑星がいくつも飛び出してくるとことか、何これ?と思わせる演出もいくつか。みんなでよく分からないものに出会うっていいですよね。
個人的にはびよーんと伸びる糸電話が可愛くて好き。それを追っかけるアキオ(演:久保井研)の様子も可愛い。

話は最後白石加代子リスペクトの方向へ向かっていく。皆で年齢を重ねた人をニコニコと楽しく見送るあの場のあたたかさ! かなしみを抱えながら人を入れ替えて進んでいくこの世を思った。


客入りはホールの半分以下なので200名にみたないくらいというところか。子ども連れが多め。
逗子のような都心部へのアクセスが良いところは、プロの芸術に触れるなら都心出ちゃうんで難しいと聞いたことがあるけど、この人数は主催者の想定からみてどうだったんだろうか。
同じ街で暮らす人たちが(もちろんそうでない人も)集まって一緒に笑って共にいる、という経験はいいものだと思うんだ。仲良くはならなくても、同じ時間を楽しんだということで、分かりあえるかも、少なくとも一緒に生きていけるかもと思える。まぁでもそういう場は劇場に限らないし、逗子だと海岸とかありますし。
劇場の機能を特別視するのは自分は嫌なのですが(だって演劇観ないけど素敵な人はたくさんいるじゃないですか)、その上で劇場の機能とは何だろうと考える昨今。

とにかく良い場だった。行けて良かった。