観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『クレイジー・フォー・ユー』

会場:KAAT ホール
企画・製作:四季株式会社
上演時間:3時間(第一幕85分、休憩20分、第二幕75分)


ガーシュウィンの音楽を用いたミュージカル・コメディ。劇団四季としては8年ぶりの上演である。

銀行の跡取り息子であるボビーは家業に興味を持てず、ダンスに夢中だ。ショー・プロデューサー、ザングラーに自分のダンスを日々アピールするが相手にされていない。
ある日、母からの命で砂漠の町にある劇場の差し押さえへ向かう。かつて金で栄えたその町も今は廃れており、劇場でも上演は行われていない。
ボビーは劇場オーナーの娘であるポリーに惚れ、共に劇場再建を目指そうとする。しかしポリーは銀行の人間であるボビーのことを信頼しない。そこでボビーはザングラーに変装し、ショーの上演へと奔走する。その過程、ポリーはザングラー(偽)に惚れてしまい……。


初の劇団四季。久々のミュージカル観劇なこともありかなり楽しみにしていたのだが、嫌な気持ちで帰ることになった。

まずもともとの作品に対してだが、終わり方がいまいちだと思った。
町の人々とショーを作り上げ、お客も入り、ポリーとも結ばれて大団円! なシーンのはずなのだが盛り上がりにかける。メインは白い衣装をまとった主役二人のデュエット・ダンスであり、その後ろではきらびやかな衣装を着た女性ダンサーたち(ボビーがニューヨークから連れてきた)がポーズを決めて立っている。そこだけ見れば華やかでロマンチックで素敵な場面だ。しかし、それまで町の人々と共にその場にあるもので創意工夫をして作りあげるワクワクするようなナンバーをやってきたのに、最後になってニューヨーク仕込みの綺麗なそれで終わってしまうのはつまらない。一応、この後にも全員登場して行うフィナーレはあるのだが、舞台後方高段でポーズを決めるダンサーは場面の飾りとしての役割を果たすばかりで、全員で盛り上がるかんじではない。
これまで登場人物たちが、そして観客である私たちが楽しんできたものがあまり反映されないラストシーンで、急に放り出されたような感覚をおぼえた。


次に演出について。
まず、冒頭のオーバーチュアに大変がっかりした。録音なのはいい。仕方がない。しかしあれは長すぎる。生オケならあの長さでも楽しめたろうが、録音で長々やられても初見の観客には退屈だ。

そして何よりがっかりした、というより嫌な気持ちになったのは、セクシュアル・ハラスメントになるような事象がギャグとして取り扱われていることだ。
一番ひどいのは、女性ダンサーが町の男たちにダンスを教えるシーン。胸に手をあてる振付を指示した瞬間、男たちがダンサーに寄ってきてダンサーの胸を触ろうとする。ダンサーは当然嫌そうにしている。そしてこれが天丼ギャグとして繰り返される。まじかよ。面白くねーよ。
他にも、女性ダンサーの楽屋を男たちがのぞいて、ダンサーたちがキャーと叫ぶシーンがあったりする。叫ぶだけで誰もちゃんと怒らない。
自分がこの作品を見に行った理由の1つは、プロモーションVTRにおいてヒロイン、ポリーが物事を臆せずはっきり言う女性として描かれているのに惹かれたからだ。それでこんなシーンを見させられるとは思わなかった。ついでに、周りが結構笑っているのにも、そして終演後ほぼ全員がスタンディングオベーションだったのにもまぁ傷ついた。そうですか。


というわけで初めての劇団四季。セリフの発話は独特だが主役級は演技が上手いし、皆一定歌えるし、身体能力のある人がかなりいるしでパフォーマンスそれ自体は想定を超えて楽しめたのだが、上演条件に合わせた工夫や今ここで上演するうえでの作品への批評的な目があまりないようにみえた。
今後一切観たくないとまでは思わないが(終演直後はよぎったけど)、新作の輸入物か、色恋の要素が少ない演目でない限り観に行きたくはないな、と思った。