観劇記録であるとか

タイトルの通り。

『掃除機』@KAAT

会場:KAAT 中スタジオ
作:岡田利規 演出:本谷有希子
音楽:環ROY
上演時間:90分、休憩なし


無職の80代の父、引きこもりの50代の娘、無職の40代の息子の三人家族の姿が、掃除機「デメ」の目線から描かれる。

本作はもともと岡田利規がドイツの劇場に提供し上演した作品で、今回の上演は演出に本谷有希子を迎えてなされた。登場人物から分かるとおり「8050問題」を扱っている。
新演出にあたって宣伝時から特色として挙げられたのは、父役が3人いること、そして音楽をラッパーの環ROYが担当していることだ。私もこの2点に興味を抱き、チケットを取った。

ざっくりと「外に出てみる、外を見てみる」話と受け取った。そしてその対象は物語の登場人物のような「家の中にいる人」に限らない。観客そして自らが演劇/劇場の外に出てみる、ということも強く意識していたように思う。

環ROYはこの外に出てみるための起爆剤、今現在の均衡を壊す存在として機能していた。
環ROY演じるヒデは、家族3人のギリギリの関係性を壊す。また、ヒデが登場するシーンの長セリフはラップのリズムに近いかたちで発話されており、他の俳優と明らかに異なる。このシーンは観客に向けての語りなのだが、冒頭のデメの一人語り(演:栗原類。家族は観客に向かずデメに向かって話しかける)と比較すると熱があるというか、観客を煽ろうとする意識が強く感じられるセリフ回しで、異質な存在であることを際立たせる。
また音楽監督としての環ROYの存在も異質だ。舞台上にいてオペをしているのもそうだし、あげく飲み食いする。カーテンコールでも一人だけ客席に向かって退場し、観客を演劇の外へ向かわせようとする役目を果たしていた。極めつけに(これは演出の話だが)客席側のカーテンが開かれ、劇場の外が見えるようになる。

というけわけで、ほとんど環ROYの話しかしてないわけだが、そうなってしまうくらいには環ROYが異質で、かつその在り方が効いていた。
ただそのために、家族の話とか8050問題の話とかが軽くなってしまったことは否めない。ラストのパースペクティヴの話が、冒頭のデメの語りに対応していることは戯曲を読んでやっと気づいた。また父親役が3人いることの効果もあまり見出だせなかった。見ていて楽しかったけど。
つまりは視界を拡げる・外に出てみる、という作品のメッセージを演劇の方にかなりふった演出と捉えた。